まずはじめに、この文章は「鍼灸施術でがんが治る」という類の内容ではなく、癌療養の患者様に、どのようなお手伝いが可能かについて述べたものです。
鍼灸施術が主に担うことが出来るのは、患者さんの心身を支え、がん治療を効果的に続けるためのサポート役です。
治療が思うように継続できない、痛みが続いてつらい、ストレスで神経が休まらないなど、治療に際して難しさを抱えている方のお手伝いができると考えています。
がん治療中の方のためにできることとして第一に挙げられるのは、筋のこわばりを和らげ、痛みを軽減させることです。
がんの標準治療には痛みを伴うものが少なくなく、そのつらさから治療を中断せざるを得ない場合もあります。痛みを和らげる鍼灸施術は、そうした方ができるだけ継続して治療を行うための支えとなります。
たとえば、乳がんの療養で用いられるアロマターゼ阻害薬と鍼施術の組み合わせが知られています。アロマターゼ阻害薬の副作用であらわれる関節痛が、鍼施術によって改善される可能性が示唆されています*¹。
鍼灸施術は古くから、ストレス緩和や交感神経緊張緩和のために用いられてきました。
病気治療にかかわる社会的・心理的・肉体的なストレス、それに伴う交感神経の過剰興奮によるさまざまな症状に対して、鍼灸の助けが期待できます。
抗がん剤の副作用による悪心・嘔吐で苦しむ方向けの鍼施術、骨髓抑制の影響を受ける方向けの灸施術があります。
特に、骨髄抑制への対応はがん治療において重要です。
抗がん剤治療(場合によってはがんそのものの浸潤)によって骨髄の骨髄の働きが抑えられると、白血球が減少します。それによって免疫が低下し、場合によっては治療を続けられなくなる恐れがあるのです。
鍼灸施術、特にお灸が免疫系に影響する可能性については、以前より報告されていました。灸施術が、肺がん患者の化学療法に伴う骨髄抑制を改善する事を報告した臨床研究もあります。*²。
白血球減少が緩和できれば、免疫低下のリスクも下がり、抗がん剤治療を効果的な回数まで続けることが可能です。鍼灸施術に期待できる、大きな手助けだと思っています。
がん治療と並行して鍼灸施術を受ける場合には、一般の方以上に鍼灸師の選び方が重要になります。
私が考える、がん治療中の方が鍼灸師を選ぶ際に重視すべきポイントは以下の3点です。
がんの療養でお悩みの場合は、鍼灸施術がお力になれる可能性があります。
関心を持った方は、医師と相談のうえ、鍼灸院を訪れてみてください。
(参考文献)
*1:Dawn L Hershman, Joseph M Unger, Heather Greenlee, et al.Effect of Acupuncture vs Sham Acupuncture or Waitlist Control on Joint Pain Related to Aromatase Inhibitors Among Women With Early-Stage Breast Cancer: A Randomized Clinical Trial.JAMA. 2018 Jul 10;320(2);167-176. doi: 10.1001/jama.2018.8907.
*2:Chen HY, Li SG, Cho WC, et al. The role of acupoint stimulation as an adjunct therapy for lung cancer: a systematic review and meta-analysis. BMC Complement Altern Med 2013;13: 362
・がんの補完代替医療クリニカル・エビデンス2016年版,特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会編,2016,金原出版株式会社