研究自体が少ないのですが、直接灸が免疫系に作用するのは間違いでないと考えられます。
効果の正体の一つとしてて考えられているのは、熱ショックタンパク質(Hsp)です。熱ショックタンパク質とは細胞が熱、化学物質、虚血などのストレッサーにさらされたときに増える、細胞を守るためのたんぱくタンパク質です。ラットを用いた研究で、お灸ではHsp70というグループのHspが増えることが報告されています。Hsp70は直後ではなくお灸の数時間後に増えていることから、お灸は時間がたってからじわじわ効いてくるという体感はそのためかもしれません。
Hspの働きとしては、生体防御活性(さまざまなストレスに対する抵抗)、免疫増強、抗炎症が知られています。感染症に対する研究では、事前に温めていた動物の方が抵抗を示すことが報告されています。Hspはタンパク質の合成、運搬、分解の手伝い(専門的には分子シャペロンと言われています。)をするので、いろいろな効果が表れます。Hspは、生物が様々なストレスに対抗するために生まれたものと考えられています。
山下らの実験では、人へお灸した後2時間後の計測で、CD4/CD8比が上昇(免疫不全では低下します。)して、一過性に免疫活動性に影響を及ぼすことが報告されています。モクサアフリカとたウガンダのマケレレ大学が行った結核患者を対象とした足三里のお灸の臨床研究では、お灸とお薬の併用群では、お薬だけの群と比較して早期にお薬への反応が示されました。
昔からお灸をすると病気になりにくいと言われているのは、お灸と免疫系との関連によるものではないでしょうか。
・小林和子, 灸における熱ショックタンパク質の意義.明治鍼灸医学4, 67-71.1988
・Hitoshi Yamashita, Yoshitoshi Ichiman, and Yasuo Tanno.Changes in Peripheral Lymphocyte Subpopulations After Direct Moxibustion. Am. J. Chin. Med. 29(2), 227-235, 2001.
・中外製薬,抗体の働きとは,https://chugai-pharm.info/bio/antibody/antibodyp08.html
・モクサアフリカの論文 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1876382018301690